遺言がある場合は、故人の遺志を引き継ぎ、遺言のとおりに財産を分割していくことがほとんどです。しかし、遺言がない場合は、相続人同士で遺産分割協議を行わなければなりません。
相続人同士仲がよく、遺産の分割について、特に争いがなければ遺産分割協議はスムーズに行われますが、かならずしもスムーズに遺産分割協議がすすむとは限りません。そのような場合は、一年以上分割協議が難航することもあります。
しかし、相続税の申告期限は相続開始日から10ヶ月以内と決まっています。
では、申告期限までに遺産分割協議が調わなかった場合、税務的にどのような不利益が生じるのでしょうか?(以下、遺産分割が調っていない状態を「未分割」と言うことにします。)
2. 申告期限までに遺産分割が調わなかった場合
申告期限までに未分割の場合は、法定相続分で財産を取得したものとして相続税の申告と納税を行います。その際、以下の税務上の特例が適用できなくなることに注意が必要です。
①配偶者の税額軽減
②小規模宅地等の特例
③特定計画山林についての特例
④各種納税猶予及び免除
特に、①の配偶者の税額軽減、②の小規模宅地等の特例については、適用できるか否かで大きく納付税額が変わってきますので、未分割で申告を行う際には、納税額に留意しておかなければなりません。
※相続税は金銭一括納付が原則です。
3. 納税後に遺産分割が調った場合でも、各種特例は適用できないのか?
では、未分割で申告を行って多額の納税を行った後に、遺産分割が調った場合は、納めすぎた税金は取り戻すことはできないのでしょうか?
結論から言うと、以下3つの特例は、遺産分割が調えば適用できますので、取り戻す事が可能です。
①配偶者の税額軽減
②小規模宅地等の特例
③特定計画山林についての特例
しかし残念ながら、④の各種納税猶予及び免除については、遺産分割が調った場合でも、適用することができませんので、注意が必要です。
未分割状態で申告を行う際に重要なのは、必ず「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することです。
この書類は、「やむを得ない事情により、申告期限までに遺産分割が調わず、法定相続分で一旦申告を行ったが、3年以内には遺産分割を完了させて、改めて申告書を提出します」と、税務署に事前に伝えておくものです。
この「申告期限後3年以内の分割見込書」を当初の申告書と一緒に提出しておけば、遺産分割が調った時点で上記の特例(①配偶者の税額軽減 ②小規模宅地等の特例 ③特定計画山林についての特例 )が適用できることになり、納めすぎた相続税が戻ってくることになります。
なお、3年経過しても未分割の場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに提出し、そのやむを得ない事情がやんだ日から4ヶ月以内に申告すれば、上記の特例を適用することができます。
やむを得ない事情とは例えば、相続に関して訴えの提起がされている場合や、相続人が行方不明で財産管理人が選任されてない場合などが当てはまります。
【まとめ】
本記事では、相続税の申告期限 までに遺産分割が調わなかった場合の不利な点とその対処法について、まとめました。
要約すると、以下の通りです。
1.未分割の場合は法定相続分で取得したものとして、一度申告期限内に申告納付を行う。
その際には各種特例が使えない。
2.申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する。
3.遺産分割が調ったら、申告書を再提出 (更正の請求等)し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等
の特例を改めて適用して、税金の還付を受ける。
遺産分割が難航して、未分割申告となる場合は、必ず申告期限後3年以内の分割見込書を一緒に提出して下さい。
もちろん上記のような対処法もありますが、まずは何より遺産分割についてもめることなく、円満な相続を迎えるためにも、生前に遺言を作成しておくことや、家族信託などを活用することが一番の対策です。